蒸気入門

  1. スチームトラップの保守管理

     
    1. 保守管理の実施要領

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      工場設備(或いは全蒸気システム)の管理を充実させるうえで、スチームトラップの保守管理(以下、単にトラップ管理と記します)は欠かせません。トラップ管理の効果は、スチームトラップ自身から生じる経済的得失のみならず、それらの装置への影響等、蒸気システムとの関連要素を含めて総合的に把握すべきものですが、ここでは、スチームトラップに焦点を絞って、その管理のガイドラインを述べています。

       
      1. 基本的な実施手順

         

        トラップ管理を推進するためには、管理責任者やスタッフを決定して推進体制を固め、管理目標を定めたうえで、基本的に次の手順で進めます。

         
        1. 1)管理するスチームトラップの把握

           

          まず初めに、工場に設置されているスチームトラップを全て調査し、次の作業を行います。

           

          ①管理銘板の取付け

          スチームトラップを管理するためには、後述するように各スチームトラップを特定するための情報が必要となりますが、トラップ番号(トラップ No.)は不可欠な情報の1つです。そのトラップ No.を記した管理銘板を全てのスチームトラップに取り付けます。

          下図に㈱ミヤワキが提供する管理銘板を示します。

          ステンレス製の札で、管理するエリア名とトラップ No.を表記しています。

           

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          図6.1 管理銘板

           

          ②スチームトラップ管理台帳の作成

          管理するスチームトラップを全て登録した一覧リストを作成します。このリストはスチームトラップ管理台帳、或いは単に管理台帳と呼んでおり、集計分析等のベースになるものです(管理台帳の必要情報については、「スチームトラップ管理台帳」参照)。

           

          ③配置図の作成

          スチームトラップの診断は、工場各所を巡回しなければなりませんが、診断作業を順序よく効率的に行なったり、不良トラップの整備を行う際には配置図が不可欠となります。


           
        2. 2)スチームトラップの診断と記録

           

          診断期間を定めて各スチームトラップを診断し、その結果を記録します。診断期間は、年1回蒸気使用量が増加する冬場に設ける工場が多く見られます。診断は、管理台帳を現場に持参して各スチームトラップを診断し、その結果を1つ1つ書き込んでいく作業となりますが、今日では診断やその記録を自動的に行う便利な診断管理ツールが開発され、今ではそのツールを用いて診断している工場も多く見られます。


           
        3. 3)集計・分析処理

           

          現場で得られた診断結果を基に集計分析を行います。

          不良率や蒸気損失等を算出し、トラップ管理の効果や事前に設定した目標に対する評価を行います。例えば、前回、前々回の結果との相対比較により不良率等が確実に減少していることや、目標を達成できそうな結果や傾向が得られたか等の評価を行います。

          また、新規取付け後比較的短期間で不良化したもの、相対的に不良率が大きい場所や装置アイテムについても、使用条件を含めて抽出しておくことが賢明です。


           
        4. 4)集計分析後のアクション

         

        集計分析を終えた後は、それらの結果やデータを基に、少なくとも次のことを行う必要があります。

         

        ○次回診断のためのトラップ管理目標等の設定又は見直し

        今回の診断から得られるトラップ管理の評価から、次回診断に向けての目標を設定し、既に設定している場合は、必要によりその見直し修正を行います。また、トラップの交換や修理の基準も再検討し、目標達成の見通しを立てます。

         

        ○不良トラップの修理交換

        診断により発見された不良トラップは、基本的に全て修理又は交換対象にすべきですが、費用との兼合い等により、修理、交換基準を設けて、それに従って対象を絞っているのがむしろ実際的です。修理、交換で大切なことは、修理するトラップのみならず交換するトラップについても分解して内部調査を行い、不良原因を特定(または推定)して記録に残すことです。

         

        ○運転状況調査

        不良トラップに限られることではありませんが、トラップの設置部周辺についても調査しておくことが賢明です。そこで使われている装置によっては、その排出圧力、従ってトラップ一次側の圧力が予想外に低下する場合もあります。また配管組みが不適切なためにトラップや装置の性能が十分発揮されず、場合によっては誤作動や故障を招き易い状況になっている場合があります。このような状況を調査発見することによって、より適切なトラップに変更したり、配管組みを改良することができます(配管に関する問題については、「スチームトラップの取付配管に関する注意事項」参照)。

         

        ○管理台帳へのフィードバック

        前述のアクションにより、修理交換したトラップの修理内容や交換取付けしたトラップの名称と取付日、不良原因、及び運転状況調査等で気付いた点は、全て管理台帳へ記録し、将来の分析や評価に役立てるようにします。

        その他のアクションとして、修理交換後に取り付けたトラップの作動や、配管組みを改良した場合はそれらの効果を確認するために、次の定期診断時期を待たず、 1 ヶ月から数ヶ月後に巡回点検を実施するのも大切なことです。

      2. スチームトラップ管理台帳

 

管理台帳は、診断で得られたデータの集計分析や経時的な管理効果の把握を行う等、トラップ管理に必要な元データを保持する最も大切な基本台帳です。スチームトラップの保守管理に必要な情報をトラップ毎に登録して作成します。

 

登録する情報は、管理方法や各工場に依存して異なる部分もありますが、次に示す項目は必ず登録すべき情報であり、欠落すると管理上支障をきたします。

 

① トラップ No.:各スチームトラップを特定する番号で、数字、或いは数字とアルファベットで表します。

 

② トラップ名:スチームトラップの製品名です。

③ 取付場所

④ 使用蒸気圧力

⑤ 口径(呼び径)

⑥ 接続:フランジやねじ込み等です。

⑦ 設定温度:温調トラップのみ必要です。

⑧ 作動判定結果:「正常」、「蒸気漏れ」、「閉塞」、「休止」等があります。

「蒸気漏れ」は、少量から多量に至るまで程度差が大きいため、更に「漏れ小」、「漏れ中」、「漏れ大」、「吹放し」の4段階かそれ以上に区分することが望まれます。

 

この他、用途(蒸気主管、トレース、装置取付等)や復水処理(回収、大気開放)、また大きな工場では区画単位での管理も十分有り得るため、取付場所を含む区画名(エリア名)なども準必須項目として挙げられます。管理台帳例は図 6.4 をご覧ください。